ヘッセの『シッダールタ』を読んだ

ヘルマン・ヘッセの『シッダールタ』を読んだ。

 

いつも思うのだが、
ヘッセの著作は豊潤な詩的イメージで満ち溢れている。

 

それはヘッセがしっかりと古典を学んだことがあり
なおかつそのエッセンスを自分のものにしているからである。

 

とりわけギリシア文学の影響が大きい。

 

ホメロスやクセノフォン、あるいはプラトンの著作は、
人間性の本質を描き出している。

 

その描写は美しい比喩と、劇的な構成によって完成されている。

 

これらの作家や哲学者の影響を抜きにしては、
西洋文化を語ることはできない。

 

確かにキリスト教文化の影響も多大ではあるが、
それらもまたギリシア文化を土台にして完成されたものだ。

 

アウグスティヌスは新プラトン主義の影響を強く受けているし、
トマス・アクィナスはアリストテレスの優れた注釈者でもある。

 

そうであるから、ヘッセは古典文学のある意味
正統な継承者であると言えるだろう。

 

この路線から外れようとすることも、あるいは可能かもしれない。

 

しかし娯楽作品ならばともかく、それでいて芸術性の頂点を
極める作品を書くのは非常に難しいだろう。

 

アリストテレスが『詩学』で述べているように、
悲劇において最も高い芸術性があらわになる。

 

そして悲劇とは、ギリシア悲劇を抜きにしては
語ることのできないものであるからである。

 

個人的には、この伝統的な悲劇路線をとらずに成功している作家は
取りも直さず天才だと思う。

例えば、ディッケンズ、ルイス・キャロル、オースター、
日本でいえば安部公房がそれにあたるだろう。